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【IWI×福市対談】
社会課題の解決、持続可能な社会実現のために企業ができること

貧困などの社会課題解決を目指し、フェアトレード事業を行う株式会社福市(以下、福市)。同社代表取締役 髙津玉枝氏(以下、敬称略)は、京都市「イノベーション・キュレーター塾」の塾長としても活躍されています。今回の対談では、 髙津氏と株式会社インテリジェント ウェイブ(以下、IWI)代表取締役社長 佐藤邦光が、社会に対する企業の向き合い方多様な人財が活躍するための組織のあり方について語り合いました。

佐藤 邦光(さとう くにみつ)


株式会社インテリジェント ウェイブ 代表取締役社長
佐藤 邦光(さとう くにみつ)

2020年9月にインテリジェント ウェイブ社長に就任。次世代の情報化社会に向けて、「決済、金融、セキュリティ分野を含む様々な企業のビジネスリライアビリティ(※)を支えるITサービス会社」になることをミッションとする変革をスタートさせる。社員と、会社の将来はどうあるべきかを議論しながら、従来の延長線にはない変革を常に求めている。また「働きやすさ」と「働きがい」を追求する多様な働き方と多様な人財の活躍の推進を通じて、新たな挑戦や創造を生み出す組織づくりを進めている。“世の中を変える”、“未来を創り出す”という実感を挑戦の醍醐味としており、新たな挑戦を通して、持続可能な社会に貢献し、社員と会社の成長の実現を目指している。

(※)ビジネスリライアビリティ:顧客事業の信頼性および自社事業の信頼性を高め続けること。(当社の造語)

髙津 玉枝(たかつ たまえ)


株式会社福市 代表取締役
髙津 玉枝(たかつ たまえ)

富士ゼロックスに入社、マーケティングの会社設立後、フェアトレードの概念に出会い、06年に(株)福市を設立。「持続可能な社会のために行動する人を増やす」をミッションにフェアトレードの普及に取り組む。阪急百貨店うめだ本店にセレクトショップLovesenseを出店。震災後に東北支援プロジェクトEAST LOOPを創出し200名以上の被災者に仕事をつくる。15年から京都市イノベーション・キュレーター塾の塾長を務める。19年には阪急うめだ本店のサスティナブルイベントのアドバイザーとして参画、600名に研修などを行う。2023年からサスティナブルな本質を学び共に行動を起こす仲間を作る場所として「サスティナレシピ ~よりよい未来への処方箋~」オンラインサロンをスタート。講演・セミナー多数



福市の事業や設立の背景について、改めてお聞かせください。

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髙津
福市は、フェアトレード商品の輸入販売や、フェアトレードに関する外部企業へのコンサルティング事業を行っています。セレクトショップ「Love&sense」では、世界各国の生産者パートナーと共に、フェアトレード商品の製造や輸入販売を手がけており、阪急うめだ本店に常設店舗を構えるほか、さまざまな百貨店・商業施設にてポップアップイベントを展開。フェアトレード商品のEC事業や、社会的な課題解決を目指す企業様へのコンサルティングなど、フェアトレードに関するさまざまな事業をしています。

佐藤:
髙津さんは、福市創業以前にも会社を経営されていたのですよね。現在のフェアトレード事業を行うに至った背景は、どのようなものだったのでしょうか。

髙津:
福市を設立したのは2006年。それ以前はマーケティングの会社を経営していて、家庭用品やインテリアの商品構成、売り場づくりや、広報PRなどの支援をしていました。最初の転機が訪れたのは1990年代後半のこと。当時はデフレの真っ只中で、「とにかく商品を安く作りたい」という要望が多くありました。そうした中で、これだけ安い原価で商品を作れる裏には、何かがあるのではないか。誰かが搾取されているのではないだろうかと、疑問を持つようになったのです。

ほどなく、フェアトレードの考え方と出会いました。貧困の現場と言われる国・地域へ足を運び、目の当たりにしたのは、安さばかりを追い求める社会から搾取されている人々の姿。そこには、自分がこれまで見たこともないような貧困の現実がありました。

 労働力の搾取だけではなく、環境破壊も深刻でしたね。廃棄物の処理について、日本であれば適切な処理が行われるように法整備がなされています。しかし途上国では、規制が存在しないか、存在しても遵守されていない状況がある。ゴミが野ざらしになっている環境でも、そこで生産した方が安上がりだから利用する。そのような状況を目の当たりにして、大きな問題意識を抱いたのです。

「フェアトレード」と聞いて多くの方がイメージすることは、途上国の恵まれない人をどう助けるか……といった課題だと思います。しかし、私が現地で見聞きして、いろいろなことを勉強して思ったのは、私たちの消費行動そのものが、貧困に加担しているかもしれないということ。多くの日本人がその構造を認識し、問題解決のためにアクションを起こす社会をつくる。実際に貧困の現場を目にしたことで、ミッションが明確になりましたね。その後、国際NGOの日本法人設立に携わるなどといった経験を経て、福市の設立に至りました。

佐藤
ここ数年の日本社会では、SDGsESG、エシカル消費といった言葉に関心を持つ人々や組織が増えています。一方で、それらの言葉がバズワード的に取り扱われている現状もある。日本において、フェアトレードや持続的な社会に対する意識が薄かった時代から事業に取り組まれてきた髙津さんは、この状況をどのようにお考えでしょうか。

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髙津:
SDGsウォッシュ」という言葉もあるように、本質からかけ離れたマーケティングツールとして扱われているケースも目に付くのが現状ですね。正直、憤りを感じるところもあります。

そもそも、あらゆる面で完璧な活動というのはありえません。福市の事業にしても、フェアトレードの取組みを行う中で、遠く離れた国から商品を輸入している。その過程では、当然CO2を排出しているわけです。それでも、できることに取り組むことが大切なわけですが、「私たちはこの領域の課題を解決したい」「ここの領域は難しい、だけどこの領域に注力している」というように、道筋を立てて考えている人や組織がいかに少ないか。SDGsやESGを、便利なブランディングツールとして扱うのではなく、その本質をきちんと考える努力が必要です。

現在は、持続的な社会に対して課題意識を持つ人が増えています。特に「Z世代」とも呼ばれる若い人たちは、そのような課題に対する関心や問題意識を持つ人が多い。企業は社会とどう向き合い、どのような行動をとるべきでしょうか。お2人の考えをお聞かせください。

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髙津:
大きな視点の話になりますが、私たち人類は、地球の資源を消費しながら活動していますよね。いまは、「地球が持つ回復力」を超える量の消費を続けている状態です。この状況を逆転させるくらいの意識を、社会全体で共有し、実践に移さなければならない段階にあると捉えています。そのためには、現状を把握したうえで、共通の目標を達成することの意義を、皆が共有しなければなりません。

たとえば、2015年に採択されたパリ協定では、「世界の平均気温上昇を、産業革命以前に比べて2度より十分低く抑え、1.5度以内に抑える努力をする」ことが合意されています。目標を達成するためにはどうしたらいいか。1.5度で本当に十分なのか。皆が知恵を絞って議論し、取組みを継続することが大切です。

若い世代の人々は、特に高い意識を持っており、それらの課題を自分ごととして捉えています。彼らは、サステナビリティを掲げる企業が実際にアクションしているか、掲げたマインドが深く浸透しているかまで見ている。たとえ会社のトップが課題意識を持っていても、現場レベルまで意識が浸透していなければ、すぐに見抜かれてしまいます。ただ理念を掲げるだけでは不十分で、どのような問題意識を持ち、どのような実践をしているか。そこまでを含めて発信していくことが、企業に求められているのではないでしょうか。

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佐藤:
全く同感です。以前、スイスで若者と会話をする機会があり、彼らに「どのような基準で働く会社を選んでいますか」と尋ねたことがあります。返ってきたのは、自分のライフスタイルを尊重してくれる企業であることに加えて、「その会社がSDGsの何番をサポートしているか、自分の仕事がどの領域をサポートしているかが明確であること」という言葉でした。日本においても、同じような意識を持つ、若い世代が増えていると感じますね。

私の役割は、彼らの声をオープンかつフェアに聞く環境を整えること。合わせて、常にファクトに基づいて物事を見ることです。自分の中にある価値観を基準にするのではなく、今ある事実をベースに物事を考える必要があります。そして、話し合いの土台を築いたうえで、若い世代を含めた多様な意見を吸い上げる。社員との1on1ミーティングや、数名と対話するクロストークを行う中で、よりファクトを見ることの大切さを実感しています。もちろん、実践できることはトライし、もしできないことがあれば、理由を丁寧に説明する責任があります。

SDGs達成に向けた取組みにしても、発信のみに力を入れたいわゆる「アリバイ作り」ではいけません。IWIで働く全ての社員が課題を認識し、自分ごととして解決に取り組む。その結果として、若い世代からも、「IWIは持続的な社会の実現に本気で取り組む会社である」と認知されたら嬉しいですね。

髙津さまは、福市の代表だけでなく、京都市ソーシャルイノベーション研究所(以下、SILK)が提供する「イノベーション・キュレーター塾」の塾長も務められています。塾の内容や、塾長に就任された背景についてお聞かせください。

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髙津:
イノベーション・キュレーター塾は、社会課題の解決や社会変革に寄与する「イノベーション・キュレーター」を育成する場です。2015年にスタートして以来、今までに7期開催され、すでに多くの卒塾生がそれぞれのフィールドで活躍しています。

これまで、社会起業家支援という観点において、起業をサポートするプログラムは沢山ありました。しかし、既に存在する企業に対して伴走支援できる人や、そのような人を育成する支援の場が不足しているという現状があります。その伴走型支援を行う人財育成のために、イノベーション・キュレーター塾が誕生したのです。

私が塾長に就任したのは、昔からの知り合いであるSILKの所長から直接、お誘いというか、任命いただいたからですね。「企業に対して伴走支援を行うマーケティング会社と、 フェアトレード事業によって社会課題の解決を目指す福市という、異なる2つの企業を立ち上げて経営してきた経験のある人は貴重」だと。「どちらの気持ちも理解している髙津さんに、ぜひ第二の髙津を育ててほしい」とお話しいただき、私もその期待に応えたいと思いました。

佐藤
イノベーション・キュレーター塾には、どのような方が参加されているのでしょうか。

髙津
塾生の皆さんは、多様な職業、さまざまなバックグラウンドをお持ちです。中小企業診断士や弁護士といった士業の方から、大学の名誉教授や銀行員、お寺の僧侶まで。年齢もバラバラで、20代から70代の方までと、幅広いですね。塾では誰もが対等な関係であることを大切にしており、お互いにさん付けで呼び合うなどして、ワークを進めていきます。

カリキュラムは、起業家としてのスキルと伴走するスキル、両方を身に着けられる構成です。塾生には、互いに協力し合う「チームプロジェクト」に取り組む一方、一人ひとりが抱える課題、「マイプロジェクト」の解決にも挑戦していただきます。「自分は○○をやりたい」という塾生に対して、周囲の塾生は伴走者になります。その事業で何を変えていきたいのか、本質的な課題は見えているのか。塾生同士でディスカッションを重ねながら、課題解決に取り組み、イノベーション・キュレーターとしての実践力や伴走力を養います。

IWIでは、多様な人財が活躍できる組織づくりに取り組まれています。性別や国籍、年齢、障がいの有無など、多様な背景を有する社員が力を発揮できる組織はどうあるべきか、お2人の考えをお聞かせください。

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佐藤
多様な人財が集まることで、新しい視点の発想が生まれてほしい。一方で、特定の属性であることを理由に不便を被るような環境があるのなら、その壁を可能な限り取り払うことが会社の役割といえます。

代表例は、やはり女性の働く環境を如何に整備していくかです。日本においては、女性が参政権を完全な形で獲得してから、まだ100年も経っていません。残念なことに、男性を基準とする社会の価値観はまだ存在していて、女性特有の不利な環境が残っています。家事や育児といった家庭負担の多さが原因となって、仕事におけるキャリア実現を諦めざるを得ないという声も、未だに多いですよね。

IWIに目を向けると、2022年時点では女性の社員が全体の約2割。まだまだ少ない状況で、今後は、性別など属性を問わず、能力のある社員を積極的に登用したいと考えています。女性社員同士によるメンター制度、育児休業中の社員に対するオンライン懇親会といった制度を設けるなど、女性社員にも能力を最大限発揮してもらえる環境の整備を続けています。世の中にはどうしようもないことも存在しますが、それを可能な限り減らしていくのが、代表である私の役割です。IWIという組織の代表として、できることはまだ沢山あると認識しています。

多様な人財が活躍する職場づくりの前提には、多様な意見をしっかりと吸い上げる体制があるべきです。上の立場から一方的に考えを押し付ける、指図するようなコミュニケーションはあってはならない。社員一人ひとりが何を考えているかを丁寧にヒアリングし、それを踏まえた判断をしていく必要があります。

髙津
佐藤さんのおっしゃる通り、フラットにコミュニケーションできる環境の整備は最も重要だと思います。上から指図したり、下から訴えたりという関係性では、「この上司に悩みを打ち明けても意味がない」と思われてしまう。それではお互いにもったいないですよね。対等な感覚でコミュニケーションを取りながら、意見を吸い上げるプロセスを確立できることが理想です。

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佐藤:
話を聞く側、上の世代の意識改革にも取り組む必要があると感じています。「自分の時代はこうだった」と過去の経験を判断基準にするのではなく、今起きている課題に対して、自分ごととして捉え、実践することが求められます。

2022年に沖縄の宮古島でワーケーションを実施したのですが、IWIの役員や本部長にも参加してもらいました。理由の1つに、日本の美しい海や自然を実際に見ることをきっかけに、環境や持続的な社会について、より自分ごととして考えてもらいたい、という意図がありました。サステナビリティや多様な人財の活躍といった課題を、他人事ではなく自分ごととして捉えてほしい。そのためには、やはり実際に物事を見聞きする、体感する機会が必要だと考えています。

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髙津
自分で課題に気づいて変わる人ほど、強いものはない。イノベーション・キュレーター塾の塾生や卒塾生と接していても、そう実感することが少なくありません。一方で、人間はすぐには変わらないという事実もあります。変化してもらうためには、いかに多面的に刺激を提供するかが肝心ですね。時には、刺激を与えたらしばらく待つことも大事だなと思います。

対談を通して佐藤さんは、社員の意見を吸い上げようという傾聴の姿勢を強くお持ちだと感じています。これほど積極的に対話をしてくださる社長は、多くはいらっしゃらない。IWIで働くことは、他の会社ではなかなか得られない経験になると思えます。

佐藤
ありがとうございます。IWIでは「社員一人ひとりの幸せと成長」をバリューに掲げています。社員の成長という意味では、私の時代だと「自分で判断して自分でやれ」と言われて放置されたものですが(笑)、今の社会でそれは通用しません。価値観が多様化する時代に合わせて、まずは一人ひとりの意見をしっかりと聞くこと。それを踏まえて、どのように人財を育成し、評価するべきか。髙津さんのご意見もぜひ参考にさせていただき、より良い職場環境を作っていきたいと改めて思いました。

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